子供の帰りが遅くなるとき、いちばん気をつけたい時間帯はいつだと思いますか。
真っ暗な夜ではありません。「まだ見える」と感じる夕方です。
警察庁はこの時間帯を薄暮(はくぼ)時間帯と呼んでいます。定義は日の入り時刻の前後1時間。ここに歩行者の死亡事故が集中していて、しかもこれから12月にかけて、その件数が跳ね上がります。
なぜ暗くなりきる前が危ないのか、目の仕組みから説明します。
数字で見る「夕方」の異常さ
内閣府の交通安全白書に載っている、平成26〜30年の5年間の死亡事故データです。時間あたりの件数で比べています。
| 時間帯 | 「自動車 × 歩行者」の死亡事故(時間あたり) |
|---|---|
| 昼間(薄暮時間帯を除く) | 162.7件 |
| 薄暮時間帯 | 643.5件 |
| 夜間(薄暮時間帯を除く) | 306.2件 |
薄暮時間帯は、昼間の約4倍です。しかも真夜中よりも多い。
死亡事故全体に占める「自動車 × 歩行者」の割合も、昼間は20%なのに対し、薄暮時間帯は52%——半分以上が歩行者です。
そして、これからの3か月がピークです
薄暮時間帯の死亡事故を月別に見ると、こうなります(同じ5年間の累計)。
| 月 | 件数 |
|---|---|
| 6月(最少) | 105件 |
| 9月 | 203件 |
| 10月 | 306件 |
| 11月 | 316件 |
| 12月 | 325件 |
6月の約3倍です。10月から12月にかけて大幅に増える、というのが白書の記述です。
理由は単純で、日の入りが下校時刻に重なるからです。9月上旬の日の入りは18時台ですが、12月上旬には16時台まで早まります。夏なら明るいうちに帰れていた時間が、そのまま薄暮時間帯になります。
なぜ「暗くなりきる前」が、いちばん危ないのか
警察庁の説明はこうです。
この時間帯は、周囲の視界が徐々に悪くなり、自動車や自転車、歩行者などの発見がお互いに遅れたり、距離や速度が分かりにくくなるためです
ポイントは「お互いに遅れる」という部分です。この時間帯の危険は、片方だけの問題ではありません。
① 運転者はライトを点けていない
まだ「見える」ので、点灯が遅れます。警察庁も「前方が見えなくなってはじめて点灯するケース」を問題として挙げています。ライトは自分が見るためだけの装備ではなく、自分の存在を相手に知らせる装備でもあります。点いていなければ、歩行者からも車が見えにくくなります。
② 歩行者は「見えているから大丈夫」と思っている
歩行者側からは、車のヘッドライトが見えます。だから「気づかれている」と感じる。ところが運転者からは、暗い服の歩行者はまだ見えていません。この非対称が薄暮時間帯の本質です。
③ 距離と速度の感覚が狂う
薄暮時間帯は、車がどれくらい近いか、どれくらい速いかの判断が鈍ります。「まだ渡れる」と思って渡り始めて間に合わない、という事故が起きます。
実際、警察庁が令和3〜7年の5年間を分析した結果では、薄暮時間帯の死亡事故で事故類型別では横断中が約8割、横断場所は横断歩道以外が約7割を占めています。
最後にちょこっとお勉強:目が「切り替え中」だから見えない
人間の網膜には、光を受け取る細胞が2種類あります。
- 錐体(すいたい)細胞——明るいところで働く。色と細かい形が分かる
- 桿体(かんたい)細胞——暗いところで働く。色は分からないが、わずかな光をとらえる
昼は錐体、夜は桿体が主役です。そして薄暮時間帯は、そのちょうど切り替わりの途中にあたります。錐体はもう光が足りず、桿体はまだ十分に感度が上がっていない。どちらも本気を出せていない状態で、いちばんものが見分けにくくなります。
さらに、この切り替わりには時間がかかります。錐体は数分で慣れますが、桿体が最大の感度に達するには30分ほど必要です。トンネルを抜けた直後や、明るい店から夜道に出た直後に何も見えないのは、このためです。
もう1つ、色の見え方もずれます。明るいところで最も明るく感じる色は黄緑あたりですが、暗くなると感度のピークが青緑側へ移ります。その結果、赤やオレンジは暗さの中で急速に沈み、青や黄緑は比較的長く見え続けます。「目立つ色だから安心」と思って選んだ赤い服が、夕方にいちばん先に見えなくなる——という逆転が起きます。
だから薄暮時間帯には、色ではなく反射材です。反射材は自分で光るわけではなく、ヘッドライトの光をそのまま返すので、運転者の目には暗さに関係なく光って見えます。
今日からできること
- 反射材を足元に1つ足す——ロービームは下向きに照射されるので、遠くから届くのは低い位置です。しかも足は歩くたびに動くので気づかれやすい
- ランドセルにも1つ——後ろから来る車に対して効きます
- 子供に「渡るときは止まって、顔を上げる」を言う——横断中が約8割です
- 横断歩道まで歩かせる——横断歩道以外が約7割です
- 習い事の帰りは、10月に入ったら経路を見直す——同じ時刻でも明るさが変わります
反射材の選び方と付け位置は、こちらにまとめました。
- 子供の反射材は足首が正解|視認距離データで解説
- ランドセルに反射材キーホルダーは必須か|フィンランドの義務化データも解説
- ランドセルカバーおすすめ3選|反射材付き・雨対策
- 登下校の防犯・交通安全——目立つ・気づける・助けを呼べる備え
- 子供の交通事故は「魔の7歳」に集中——新学期・下校時が危ない
また、2026年9月1日から中央線のない道の法定速度が30km/hに下がりました。速度が下がると停止距離が縮むので、薄暮時間帯の発見の遅れをいくらか吸収してくれます。→ 生活道路の法定速度が30キロに【2026年9月1日施行】
よく検索される疑問に答えます
Q. 薄暮時間帯は、正確には何時から何時ですか?
日の入り時刻の前後1時間です。日の入り時刻は月日と地域で変わるので、固定の時刻ではありません。9月上旬の東京なら18時台前半が日の入りなので、おおよそ17時台〜19時台。12月上旬なら16時台が日の入りなので、15時台〜17時台に前倒しになります。
Q. 夜のほうが暗いのに、なぜ夜より危ないのですか?
夜は運転者もライトを点け、歩行者も「暗い」と自覚して行動します。薄暮時間帯は、どちらも「まだ見える」と思っている点が違います。加えて夕方は交通量そのものが多く、下校・帰宅・買い物が重なります。
Q. 蛍光色(黄色や黄緑のベスト)では足りませんか?
蛍光色は昼間と薄暮時間帯には有効です。紫外線を受けて明るく見えるからです。ただし暗くなると効果が落ちます——光源となる紫外線がなくなるためです。夜間まで見込むなら、蛍光色と反射材の両方が付いたものを選んでください。
Q. ライトを持たせるのと反射材、どちらがいいですか?
役割が違います。反射材は「車のライトが当たったときに返す」、LEDライトは「当たらなくても光る」です。横から来る車や、ライトを点けていない自転車に対しては、自分で光るライトのほうが効きます。警察庁も反射材とLEDライトを併記しています。
Q. 子供が「かっこ悪い」と嫌がります。
ランドセルカバーやキーホルダーのように、身につける物ではなく持ち物に付ける方法があります。反射材は本人には光って見えないので「自分は目立っていない」と感じますが、運転者からははっきり見えています。この仕組みを説明すると納得することがあります。
📌 あわせて読みたい:子供の視野は大人の3分の2しかない——「ちゃんと見た?」が通じない理由【水平90度】
まとめ
- 薄暮時間帯=日の入り時刻の前後1時間。歩行者の死亡事故が集中する
- 時間あたりで見ると、「自動車 × 歩行者」の死亡事故は昼間の約4倍。夜間より多い
- 件数は10月〜12月に大幅増加。6月の約3倍
- 原因は目が明るい用から暗い用へ切り替わる途中で、どちらの細胞も十分に働かないこと
- 暗くなると赤系の色から先に沈む。色より反射材
- 事故は横断中が約8割、横断歩道以外が約7割
参考
- 警察庁「薄暮時間帯における交通事故防止」(令和3年〜令和7年の分析)
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/anzen/hakubo.html - 内閣府「令和元年版 交通安全白書」トピックス「薄暮時間帯の交通事故防止について」(平成26年〜平成30年)
https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/r01kou_haku/zenbun/genkyo/topics/topic_06.html - 内閣府「令和8年秋の全国交通安全運動推進要綱」
https://www8.cao.go.jp/koutu/keihatsu/undou/r08_aki/youkou.html


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