地震で停電した。お湯が沸かせない。次の授乳まで、あと1時間。
粉ミルクは水に溶かせば飲ませられる——と思っている方は多いのですが、それは推奨されている作り方ではありません。
先に結論を書きます。
- 粉ミルクは70℃以上のお湯で溶かすことが推奨されています(厚生労働省/FAO・WHO)
- 停電でお湯が作れないなら、液体ミルクがいちばん確実です。そのまま飲ませられます
- 粉ミルクしかない場合、水は「沸騰させたもの」が前提。硬度にも条件があります
この記事では、なぜ70℃なのかを原文で確認したうえで、お湯が作れない日に実際どうするかを順に書きます。
まず「なぜ70℃なのか」——菌を殺すためです
これは各社が独自に決めた数字ではありません。FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)が共同で作成したガイドラインがあり、厚生労働省がその概要を公表しています。
調乳手順の該当部分を、原文のまま引用します。
やけどに注意しながら、洗浄・殺菌した哺乳ビンに正確な量の沸かした湯を注ぎます。湯は70℃以上に保ち、沸かしてから30分以上放置しないようにします。
理由は、粉ミルクが無菌の食品ではないからです。製造工程で完全に無菌にすることは難しく、まれに乳児に病気を起こしうる菌が含まれることがある——このガイドラインは、その前提に立って調乳・保存・取扱いの方法を定めたものです。
対象となるのはサカザキ菌(Enterobacter sakazakii)などです。粉の段階で少量いる可能性があり、70℃以上の湯で溶かすことで死滅させる——これが70℃の意味です。
同じガイドラインには、もう2つ重要な指示があります。
- 調乳後2時間以内に使用しなかったミルクは捨てる
- 温め直しに電子レンジは使わない——加熱が不均一になり「ホット・スポット」ができて口をやけどする可能性があるため
なお、このガイドラインが対象にしているのは12か月齢以下の乳児です。
停電・断水で詰まるのは、3か所あります
「お湯がない」とひとくくりにされがちですが、実際は工程ごとに別の問題が起きます。
| 工程 | 停電で起きること | 断水で起きること |
|---|---|---|
| ①湯を沸かす | 電気ポット・IHが使えない | — |
| ②水を用意する | — | 水が出ない |
| ③冷ます | — | 流水で冷やせない |
| ④哺乳瓶を洗う・消毒する | 電子レンジ消毒が使えない | 洗えない |
見落とされやすいのは③と④です。ガイドラインでは、混ぜたあと「直ちに流水をあてるか、冷水又は氷水の入った容器に入れて」冷やすとされています。断水すると、この冷却水もありません。
つまり、お湯を沸かす手段さえあれば解決、という話ではありません。
いちばん確実な答えは、液体ミルクです
液体ミルク(調製液状乳)は、常温でそのまま飲ませられます。お湯も、水も、冷却も要りません。上の表の①②③がまるごと消えます。
そもそも、災害のために解禁された製品です
日本で液体ミルクが製造・販売できるようになったのは2018年です。その検討資料に、理由がはっきり書かれています。
平成21年当時、事業者団体は10度以下及び常温で流通する製品の規格基準の設定を要望していたが、先般、災害時での使用やその備蓄を踏まえ、常温での長期保存が可能な製品の開発を進める意向が示された
厚生労働省「乳幼児を対象とする調製液状乳の規格基準の設定について」(平成30年3月)からの引用です。災害備蓄が、制度を動かした理由そのものでした。
ただし、開封したら早く使い切ってください
未開封の液体ミルクは「商業的無菌」——菌がいない状態が保証されています。問題は開けたあとです。同じ資料に、試験結果が載っています。
無菌的に製造された調製液状乳に、E.coli 及び黄色ブドウ球菌を接種し、時間の経過に伴う菌の繁殖について調査したところ、…いずれも増殖することが確認されている。
「常温保存できる」は「開けたあとも安全」という意味ではありません。開封後は粉ミルクと同じで、飲み残しは取っておかないでください。
備え方とローリングストックのやり方は子供の非常食と液体ミルクの備蓄にまとめています。
粉ミルクしかない日:水はどれを使えるか
厚生労働省のガイドラインは、使ってよい水を3つに限定しています。原文です。
①水道水 ②水道法に基づく水質基準に適合することが確認されている自家用井戸等の水 ③調製粉乳の調整用として推奨される、容器包装に充填し、密栓又は密封した水 のいずれかを念のため沸騰させたものを使用しましょう。
どれを選んでも「沸騰させる」が付きます。ペットボトルの水でも、そのまま使う想定にはなっていません。
ミネラルウォーターは「硬度」を見てください
市販の水を使う場合、もう一つ条件があります。メーカーの案内を引用します。明治の公式サイトです。
弊社粉ミルクは、国内の水道水で溶いた時に母乳にできるだけ近くなるようにつくられており、それだけで赤ちゃんの成長に必要なミネラルは十分摂取できるように設計されております。
水道水が使用できない場合はカルシウム、マグネシウム等の無機塩類(ミネラル)の少ない市販水をお選びください。その際も一度沸騰させてからご使用ください。
※硬度(目安)120以下(できれば60以下)が望ましい。
粉ミルクは水道水で溶く前提で設計されています。硬水で溶くとミネラルが過剰になるため、硬度の低い水を選ぶ必要があります。
硬度はボトルのラベルか、メーカーのサイトに書かれています。「天然水」と書いてあっても硬度はさまざまです。買う前に数字を確認してください。
熱源をどう確保するか
水が用意できても、70℃にできなければ同じです。停電で使えなくなるものと、使えるものを分けます。
| 停電で使えない | 停電でも使える |
|---|---|
| 電気ポット・電気ケトル | カセットコンロ+カセットボンベ |
| IHクッキングヒーター | ガスコンロ(都市ガスが生きていれば) |
| 電子レンジ(※調乳には元々不可) | カセットボンベ式の湯沸かし器具 |
| 電気式の哺乳瓶消毒器 | 薬液消毒(つけ置き) |
カセットコンロがいちばん現実的です。電気にもガス管にも依存しません。ポータブル電源を持っている場合も、電気ケトルは消費電力が大きいので、容量と出力を確認しておいてください。→ 地震の停電に備えるポータブル電源の選び方
そして繰り返しますが、電子レンジでの加熱はガイドラインで明確に否定されています。停電が復旧しても、ここは変わりません。
結局、何をどれだけ用意しておくか
いちばん確実なのは、この4つがそろった状態です。
| 用意するもの | 役割 |
|---|---|
| 液体ミルク | お湯も水も要らない。停電・断水の最初の数日を支える |
| 硬度の低い水 | 粉ミルク用。沸騰させて使う |
| カセットコンロとボンベ | 70℃をつくる手段 |
| 使い捨て哺乳瓶・乳首/紙コップ | 洗えない期間をしのぐ |
水の量そのものは、家族全体の備蓄とあわせて考えてください。目安は1人1日3L、4人家族で3日分36L。詳しくは備蓄水は家族で何リットル必要?に計算をまとめました。調乳用の水は、この36Lとは別枠で考えたほうが安全です。
置き場所に困るなら、宅配水という手もあります
硬度の低い水を常に切らさず置いておく——これを2Lペットボトルでやると、置き場所と入れ替えの手間がついて回ります。
宅配水なら玄関まで届き、飲みながら入れ替わるので期限切れが起きません。ただし調乳に使うなら、硬度を確認してからにしてください。
参考までに、オーケンウォーターが公表している3種類の天然水の硬度です。
| 天然水(採水地) | 硬度 | 明治の目安(60以下が望ましい) |
|---|---|---|
| 京都丹波の銘水(京都府) | 31 mg/L | 満たす |
| 大分天領の銘水(大分県) | 36 mg/L | 満たす |
| 富士山の銘水(静岡県) | 50 mg/L | 満たす |
3種とも軟水の範囲で、明治が「できれば」としている60以下に収まっています。ボトルは12Lで、水道が止まってもボトルが手元に残ります。
ただし、宅配水を入れても解決しないことが2つあります。ここは正直に書きます。
- 沸騰は必要です。厚生労働省のガイドラインは市販の水についても「念のため沸騰させたもの」としています。宅配水でも同じです
- ウォーターサーバー本体は停電すると動きません。ボトルから直接注ぐ道具が別に要ります(オーケンウォーターは専用のボトルスタンドを別売りしています)
つまり宅配水は「水の確保」までを担当し、「70℃をつくる」は別の手段が必要です。カセットコンロとセットで考えてください。
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なお、ウォーターサーバーを子供のいる家に置く場合は、温水でのやけど対策が別に必要です。事故の75%が1歳以下に集中しています。→ ウォーターサーバーで子供がやけど
よくある質問
Q. 水だけで粉ミルクを溶かしてもいいですか?
A. 推奨されていません。70℃以上という条件は、粉に含まれうる菌を死滅させるためのものです。水で溶いた場合、その工程が抜け落ちます。お湯が作れない状況なら、粉ミルクを水で溶くより、液体ミルクを使うほうが理にかなっています。
Q. 一度沸かして冷ましておいた「湯冷まし」は使えますか?
A. 調乳そのものには70℃以上の湯が必要なので、湯冷ましだけで溶かすことはできません。湯冷ましは、熱いミルクを適温まで下げるときに使えます。ガイドラインは「沸かしてから30分以上放置しない」としているので、調乳用の湯は都度沸かすのが前提です。
Q. 母乳が出ていれば備えなくていいですか?
A. 災害時はストレスや脱水で母乳の出が変わることがあります。ふだん母乳のみの家庭でも、液体ミルクを少量備えておくと選択肢が残ります。使い慣れていない場合は、平常時に一度試しておくと安心です。
Q. 賞味期限が切れそうな液体ミルクはどうすれば?
A. ふだんの授乳や外出時に使って、使った分だけ買い足す——ローリングストックにすれば期限切れは起きません。やり方は非常食と液体ミルクの備蓄にまとめています。
まとめ
- 粉ミルクは70℃以上の湯で溶かす。理由は粉が無菌ではないから(厚生労働省/FAO・WHO)
- 停電・断水で詰まるのは「沸かす」「水」「冷ます」「洗う」の4か所
- 液体ミルクが最も確実。そもそも災害備蓄を理由に国内解禁された製品
- ただし開封後は菌が増える(厚生労働省の試験で確認済み)。飲み残しは取っておかない
- 粉ミルク用の水は沸騰させたもの。市販水なら硬度60以下が望ましい(明治)
- 熱源はカセットコンロがいちばん現実的。電子レンジは調乳・温め直しとも不可
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