冬の夜、地震か大雪で停電した。エアコンが止まる。ファンヒーターも動かない。部屋の温度が、1時間ごとに下がっていく。
このとき、大人より先に危なくなるのは赤ちゃんです。理由は気持ちの問題ではなく、体のつくりの問題です。
先に結論を書きます。
- 石油ファンヒーターは停電すると使えません。電気を使わない石油ストーブは使えますが、換気が前提です
- 屋内で「燃やして暖を取る」のは、いちばん危ない選択です。発電機の室内使用では死亡事故が起きています
- 電気がない夜の保温は、①濡れを取る ②床から離す ③大人とくっつく ④頭と首を覆うの順番でやります
- 備えるなら、ポータブル電源は「暖房家電を動かす」ではなく「電気毛布を一晩動かす」で容量を決めるのが現実的です
この記事では、公的機関の原文で確認できることだけを使って、やってはいけないことと電気なしでできることを順に書きます。
なぜ赤ちゃんが先に冷えるのか——「体温調節機能が未熟」は公的な表現です
東京都が自治体の防災担当者向けに作っている「妊産婦・乳幼児を守る災害対策ガイドライン」に、乳児期の心身の特性がまとめられています。そのなかの一行です。
体温調節機能が未熟なため、外気温に影響されやすい。
同じガイドラインは、生活上の留意点としてこう続けます。
体温調節のために、室温調節や衣服での調整が重要である。
つまり乳児は、自分で体温を保つのではなく、周りの環境に体温を預けています。その環境をつくっていたのが暖房で、停電はそれを一斉に止めます。
これは想像の話ではありません。同じガイドラインは、過去の被災者の体験から実際に起きたことも記録しています。
電気やガスが使えず、寒さ等により、体温調節に影響が生じ、風邪や下痢などになる。
被災した乳幼児にみられた身体の変化として挙がっているのは、「風邪をひく」「風邪をひいていた子供が肺炎になる」「ぜん息が悪化する」でした。
寒さそのもので急に倒れるというより、体調を崩し、それが重くなっていく——停電の寒さが赤ちゃんに効いてくるのは、この経路です。だから「一晩くらい」で軽く見ないほうがいい、というのがこの記事の出発点です。
新生児の目安は「室温25℃前後」と書かれています
同ガイドラインの月齢別の表では、新生児(生後28日未満)の生活上の留意点に、室温25度前後・湿度60%前後と記載されています。あわせて、こうも書かれています。
体温調節が未熟なため、日光、風、冷暖房が直接あたらないようにする
ここは誤解されやすいところなので補足します。平常時に問題になるのは、むしろ「暖めすぎ」です。厚着や高すぎる室温はSIDS(乳幼児突然死症候群)のリスク要因として知られていて、当ブログでも赤ちゃんの冬の室温は20〜23℃という記事を書いています。
停電のときだけは、向きが逆になります。暖房が止まっているので、暖めすぎる心配より先に、冷えるほうを見る。この記事はその状況の話です。
停電すると、どの暖房が止まるか
「うちは石油だから停電でも大丈夫」と思っている方が多いのですが、石油暖房には停電で使えるものと使えないものがあります。ここを勘違いしたまま冬を迎えると、当日に困ります。
日本ガス石油機器工業会(メーカーの業界団体)が、停電時の使用について注意事項を出しています。原文です。
●電源(100V)を使用する石油燃焼機器(石油ファンヒーター・石油給湯機等)の場合
100Vを使用している石油燃焼機器につきましては、停電時に使用できません。
●電源(100V)を使用しない石油燃焼機器(石油ストーブ・石油こんろ等)の場合
停電時にも使用できますが、換気扇が停止しておりますので、換気には十分ご注意の上ご使用ください。換気は1〜2時間に1回程度を目安に窓を開けて行ってください。
整理するとこうなります。
| 暖房 | 停電時 | 注意 |
|---|---|---|
| エアコン | × | — |
| 石油ファンヒーター | × | 灯油が入っていても動きません |
| FF式(密閉式)石油暖房機 | × | 100Vを使います |
| 電気ストーブ・ホットカーペット・電気毛布 | × | — |
| 石油ストーブ(反射式・対流式) | ○ | 1〜2時間に1回、窓を開けて換気 |
| カセットガスストーブ | ○ | 同上。ボンベの消費が早い |
「電源コードがあるかどうか」が分かれ目です。コンセントに挿して使っているなら、停電で止まります。
子供がいる家では、もう一行だけ重要です
同じ注意事項の後半に、こう書かれています。
また、夜間の停電時での使用は、つまずいて器具が転倒したことで、やけどや火災の恐れがありますので十分注意してご使用ください。
停電の夜は、部屋が暗いままです。普段は置いていない場所に、熱を持った器具があるという状況が生まれます。子供は暗い部屋でも動きます。石油ストーブを使うなら、置く場所と導線を先に決めてください。
やけどの事故そのものについては子供のやけど防止グッズの記事でも扱っています。
やってはいけない4つ——全部「屋内で燃やす」話です
寒い夜に暖を取ろうとして起きる事故は、種類がはっきりしています。一酸化炭素中毒です。
① 携帯発電機を屋内で動かす
消費者庁・経済産業省・NITE(製品評価技術基盤機構)が連名で出している注意喚起の見出しが、そのまま答えになっています。
発電機は屋内で絶対に使用しないでください。死亡事故も発生しています。
注意点も原文で引用します。
・屋内では絶対に使用しないでください。発電機運転中の排ガスには一酸化炭素が含まれており、屋内で使用すると一酸化炭素中毒になるおそれがあります。
・屋外であっても、風通しのよいところで使用してください。
この資料には実際の事故も載っています。
- 2018年9月8日・北海道(50歳代・男性・死亡)※北海道胆振東部地震の発生後。一酸化炭素中毒で1名が死亡し、現場に家庭用の携帯発電機があった
- 2020年9月7日・鹿児島県(1名死亡・2名重症)※令和2年台風10号の発生後。換気が十分に行えない屋内で使用したため
どちらも取扱説明書には注意書きが書かれていたと明記されています。知らなかったから起きた事故ではなく、停電という状況で判断が変わってしまった事故です。
同じ資料には、濃度についての注記もあります。
※一酸化炭素濃度 3200PPM では、30 分で死亡に至る。
NITEの別の発表では、2011年度から2020年度までの10年間で、誤使用・不注意による携帯発電機の一酸化炭素中毒事故が12件(うち死亡事故5件)と集計されています。件数としては多くありませんが、起きたときの結果が重いタイプの事故です。
② カセットこんろを暖房代わりに点けっぱなしにする
調理のために短時間使うのと、暖を取るために点けたままにするのは、別の行為です。NITEは、カセットこんろについてこう注意しています。
カセットこんろを2台以上並べたり、大きな調理器具をのせて使用しないでください。熱がこもりカセットボンベが過熱されて破裂するおそれがあります。
寒いと「2台並べれば早い」と考えがちですが、そこが破裂の条件です。暖房目的での連続使用は、酸欠・不完全燃焼の面でも想定された使い方ではありません。
③ 車のエンジンをかけっぱなしにして、車内で寝る
これは後ろで条件つきの話をしますが、「雪の日に、何も考えずに」だけは避けてください。理由は次の章に書きます。
④ 石油ストーブを、換気しないまま朝まで焚く
前章のとおり、石油ストーブは停電時に使えます。ただし「1〜2時間に1回、窓を開けて換気」が使用条件です。停電の夜は換気扇も止まっているので、普段より条件が悪くなっています。
そして、赤ちゃんがいる家ではもう一段きびしく考えてください。換気のために起き続けられるかどうかが、実際の分かれ目になります。夜中の授乳で起きるとしても、換気のタイミングとは一致しません。
朝まで焚き続ける前提なら、石油ストーブは選ばない。これがいちばん安全側の判断です。
電気がなくてもできる保温——順番があります
ここからが本題です。暖房器具を動かすことをあきらめたうえで、体温を守る方法には順番があります。「毛布を掛ける」は、実は最初ではありません。
1|濡れているものを、先に全部取る
国土交通省の雪みち情報サイトが、立ち往生時の防寒について最初に挙げているのがこれです。
服が濡れている場合は着替えて、毛布がある場合は羽織る、暖かい飲み物を補給するなど、防寒対策をとりましょう。
順番が「着替える」→「羽織る」になっているのは偶然ではありません。濡れた布は熱を奪い続けるので、その上から毛布を掛けても効きません。
赤ちゃんの場合、濡れているものは汗だけではありません。
- おむつ——停電時はこまめな交換をためらいがちですが、ここは逆です
- よだれで濡れた肌着の胸元
- 吐き戻しや授乳でぬれた首まわり
暗い部屋で手探りになるので、替えの肌着とおむつを、停電時にすぐ出せる場所に置いておくのが備えになります。
2|床から離す
冷たい空気は下にたまり、床は熱を奪います。赤ちゃんを床に直接寝かせている状態は、背中側からずっと冷やされている状態です。
やることは単純です。
- 段ボール・座布団・毛布・アルミの保温シートを下に敷く
- ベビーベッドがあるなら、床より高い分だけ有利です
- 窓ぎわを避ける(ガラス面は外気に近い温度になります)
上に掛けるものより、下に敷くもののほうが先です。
3|大人とくっつく
停電時、確実に発熱し続けているものは家の中にひとつだけあります。大人の体です。
抱っこして、その上から2人まとめて毛布を掛ける。これが電気を使わない最も確実な暖房です。
ただし条件があります。親が寝入ってしまう状況では、この方法は取らないでください。ソファや厚い布団の上で抱いたまま眠り込むのは、窒息や転落の事故が起きている形です。当ブログの添い寝はいつからの記事でも同じ条件を書いています。
- 起きている大人が抱く
- 眠る時間帯は、抱っこをやめて「敷く・着せる・覆う」に切り替える
- 大人が交代できるなら、交代で起きる
4|頭と首を覆う
赤ちゃんは体に対して頭が大きく、そのぶん頭からの熱の逃げ方が大人と違います。帽子やフード、首まわりの布1枚で体感は変わります。
ただし、眠るときの顔まわりは別の危険があります。フードや大きすぎる布が顔にかかる状態は避けてください。室内で眠らせるなら、着せるタイプのスリーパーのほうが理にかなっています。掛け物と違って、ずれて顔にかぶさりません。
5|温かい飲み物は「飲める子」だけ
国交省の防寒対策に「暖かい飲み物を補給する」とありますが、これは大人と、水分を自分で飲める年齢の子の話です。
乳児の場合は授乳が水分と熱の両方を兼ねます。停電で調乳ができない問題は別に書いているので、そちらを参照してください。→停電でミルクが作れない
車で暖を取るなら、条件は3つあります
「家が寒いから、車で暖を取る」は現実に選ばれる手です。車のヒーターはエンジンの熱を使うので、停電の影響を受けません。ただし、雪の日は条件が変わります。
国土交通省の「おしえて!雪ナビ」が、立ち往生して救助を待つあいだの注意としてこう書いています。
・排気口が雪に埋まると、車内に排気ガスが逆流し一酸化炭素中毒になるおそれがあります。マフラー付近が埋まらないように定期的に除雪し、窓を少し開けて換気を行いましょう。
・車内の暖房は、燃料切れやバッテリーが上がらないように注意しながらつけましょう。
・夜間で同乗者がいる場合は、交代で睡眠をとり、一人は必ず起きていて救助が来ていないか確認しましょう。
自宅の駐車場でも、条件は同じです。降雪中や、吹きだまりができる場所では、マフラーは埋まります。
| 条件 | やること |
|---|---|
| マフラー | 定期的に除雪する。降り続いているなら「一度やった」では足りません |
| 換気 | 窓を少し開ける。閉め切らない |
| 人 | 大人のうち一人は必ず起きている |
この3つのうち1つでも成立しないなら、エンジンは切ってください。切ったうえで、前章の「濡れを取る・床から離す・くっつく・覆う」をやるほうが安全です。
なお、シートに座らせたままの長時間はそれ自体に別の問題があります。チャイルドシートで厚着させたままにしないという話はこちらの記事に書きました。
備えるなら:ポータブル電源は「何を動かすか」で容量が決まります
ここが、この記事でいちばん誤解の多いところです。「ポータブル電源があれば暖房が使える」は、数字で見ると成立しないことが多いためです。
実際のメーカー公表値で計算してみます。
| 機器 | 消費電力(メーカー公表値) |
|---|---|
| パナソニック セラミックファンヒーター DS-FS1200 | 温風「強」1170W(50Hz)/「弱」640W |
| 山善 電気敷毛布 YMS-16(シングル) | 40W |
ポータブル電源は容量をWh(ワットアワー)で表します。変換ロスがあるので、実際に使えるのは公称容量の8割程度です。500Wh級なら、使えるのはおよそ400Wh。
| つなぐもの | 500Wh級で動く時間(目安) |
|---|---|
| セラミックファンヒーター(強・1170W) | 約20分 |
| セラミックファンヒーター(弱・640W) | 約37分 |
| 電気毛布(40W) | 約10時間 |
差は30倍です。部屋の空気を暖める家電は、ポータブル電源ではほぼ動きません。一方、体に触れているものを温める家電は、一晩動きます。
停電の夜にポータブル電源でやるべきなのは、部屋を暖めることではなく、寝床を暖めることです。
この考え方でいくと、備えるものの優先順位も変わります。空間暖房の家電を買い足すより、消費電力の小さい寝具系+それを一晩動かせる容量のほうが現実的です。容量ごとの選び方は子供がいる家のポータブル電源の選び方にまとめています。
ただし、電気毛布を赤ちゃんに使うときの注意
上で例に挙げた山善 YMS-16 の表面温度は、メーカー公表値で「強」約53℃・「適温」約33℃・「弱」約23℃です。
53℃は、長く触れていれば低温やけどになる温度です。赤ちゃんは自分で「熱い」と離れられませんし、寝返りで同じ面が当たり続けます。
- 寝る前に寝床を温めておいて、寝かせるときに切る——これがいちばん安全な使い方です
- つけたまま寝かせるなら「弱」。赤ちゃんの体に直接当てず、必ずシーツや敷きパッドを挟む
- 湯たんぽ・カイロも同じ考え方です。布団の中に入れっぱなしにしない
この「温めてから切る」は、停電していないふだんの冬にもそのまま使える方法です。
ふだんの冬の使い方(取扱説明書の【警告】に「乳幼児」と書かれている理由、湯たんぽ・カイロも含めて)はこちらの記事にまとめました。
ポータブル電源そのものの注意
停電のときに初めて箱から出す、という使い方はおすすめしません。発火事故の実例と「やってはいけない使い方」は別記事にまとめてあります。NITEも、モバイルバッテリーやポータブル電源に強い衝撃を与えないよう注意喚起しています。
よくある質問
停電したら、まず何をすればいいですか
赤ちゃんがいる家では、①濡れているもの(特におむつ)を替える ②床から離す ③家族が1部屋に集まるの3つです。人が集まった部屋は、それだけで温度が下がりにくくなります。ドアを閉めて、使う部屋を減らしてください。
カイロを赤ちゃんに貼ってもいいですか
貼るタイプを直接肌や肌着に貼るのは避けてください。低温やけどの条件がそろいます。使うなら、ベビーカーや抱っこ紐の外側、毛布の外側など、体から離れた位置に留めてください。
お風呂に入れて温めるのはどうですか
停電していても給湯が生きているなら選択肢になりますが、入浴後は一気に冷えます。脱衣所が寒い状態で入れると逆効果です。拭いてすぐ着せられる準備ができてからにしてください。断水も重なっている場合は、ぬるま湯で拭くだけに切り替えます。
石油ストーブを買っておくべきですか
家庭によります。換気のために起きていられる大人がいて、置き場所と導線を確保できるなら、停電時に唯一まともに使える暖房です。一方、夜間に大人が全員寝る家庭、子供が動き回る家庭では、リスクのほうが大きくなります。その場合は、空間を暖めることをあきらめて、寝床を暖める方向(電気毛布+ポータブル電源、寝具、スリーパー)に振ったほうが安全です。
停電はどれくらい続くものですか
これは事前には分かりません。ただ、「短いと仮定して備える」のが一番よくないとは言えます。2018年の北海道胆振東部地震では全域停電が起き、前章で挙げた発電機の死亡事故もその後に起きています。一晩持ちこたえられる準備を目安にしてください。
📌 室温ごとに何を着せればいいかは【室温別】赤ちゃんの服装早見表で一覧にしています。
まとめ
- 乳児は体温調節機能が未熟で、外気温に影響されやすい(東京都ガイドライン)。停電の寒さは、風邪・肺炎・ぜん息の悪化という形で効いてきます
- 石油ファンヒーターは停電で使えません。使えるのは電源コードのない石油ストーブですが、1〜2時間に1回の換気が条件です
- 屋内で燃やすのは最も危険です。携帯発電機の屋内使用では死亡事故が起きています(消費者庁・経産省・NITE)
- 電気なしの保温は①濡れを取る ②床から離す ③大人とくっつく ④頭と首を覆うの順。毛布は最初ではありません
- 車で暖を取るならマフラーの除雪・窓を少し開ける・一人は起きているの3条件。1つでも欠けるならエンジンを切る
- ポータブル電源は空間を暖めるのではなく、寝床を暖める。500Wh級でファンヒーターは約20分、電気毛布なら約10時間
📌 あわせて読みたい:停電でミルクが作れない/子供がいる家のポータブル電源の選び方/赤ちゃんの冬の室温は何度?/地震のあと、子供と赤ちゃんを守る
📌 あわせて読みたい:停電したら冷凍母乳はどうなる?——冷凍庫は開けなければ半日〜1日

